ウイルス・雑菌と戦う身体のひみつ「線毛運動」のチカラとしくみ

風邪やインフルエンザの流行シーズン、いよいよ到来。家族みんなにずっと元気でいてもらうためにも、この時期の過ごし方には十分気をつけたいですね。実は、もともと身体には病気の原因となるウイルスや細菌を撃退するしくみがあるってご存知ですか?そんな身体のふしぎな自浄作用「線毛運動」について東京女子医大学第一内科、玉置淳教授にお話を伺いました。

玉置 淳(たまおき じゅん)東京女子医科大学第一内科 教授

身体の自浄システム、「線毛運動」とは

一般に風邪やインフルエンザのウイルスは、鼻や口からのどを通って体内に侵入、増殖します(図1)。これらのウイルスへの感染を防ぐためにヒトの身体に備わっている自浄システム、それが「線毛運動」です。鼻からのどまで続く粘膜には、「線毛」とよばれる直径1,000分の1ミリの毛が隙間なく生えています(図2)。この線毛の動きに、ウイルスへの感染を防ぐ秘密が隠されています。

鼻や口から侵入するバイ菌(図1)

線毛写真(図2)

徹底解析!「線毛運動」のメカニズム

小刻みに動いてウイルス・雑菌を排出
線毛は1秒間に15〜17回程度の速さで小刻みに動いています。この動きが線毛運動で、鼻やのどの表面にある粘液に流れを生み出します。体内に入ったウイルスや雑菌は、粘液の流れに取り込まれ、せきやたんと共に体外へ排出されたり、唾液と一緒に体内に飲み込まれ胃液で分解されます。線毛運動が正常であれば、ウイルスや雑菌は、のどの粘膜細胞に付着、増殖する前に体外へ速やかに排出されるので、感染リスクを低く保つことができます(図3)。一方、線毛運動がなんらかの要因で低下してしまうと、ウイルスや雑菌が体内へ侵入しやすくなり、インフルエンザなどに感染しやすくなってしまいます。

正常なのどの線毛運動(図3)

図4

新たな線毛が生えるまで約3週間〜1ヶ月
実際にインフルエンザなどに感染すると、最悪の場合線毛細胞はすべて死滅。新たに再生するまで、約3週間から1ヶ月かかります(図4)。「ちょっとよくなったかな」「治ったかな」と思っていても、線毛運動が回復していないこの期間は、用心することが必要です。一度治ったと思っても、すぐまた風邪をひいたりすることがありますが、これも線毛細胞がすぐには再生しきれず、ウイルスや雑菌が体内に侵入しやすくなっていることと関係があるともいえます。
線毛運動のピークは0歳
線毛運動が最も活発なのは0歳。つまり、年を重ねるごとに線毛の活動能力は低下していきます。よく「お年寄りは風邪を引きやすく、長引く」と言いますが、これは加齢による線毛運動の低下も一因なのです。

線毛運動の弱点は、「寒さ」と「乾燥」。

私たちの体を守ってくれる線毛運動にも弱点があります。たとえば、「寒さ」。気温が低下すると、線毛運動も著しく低下します。鼻やのどの表面には、無数の毛細血管が広がっていて、気温が低下するとそれらの毛細血管が収縮。のどに温かい血液が流れにくくなります。その結果、粘膜の温度も低下。線毛の活動も鈍くなります。また、「乾燥」にも気をつけたいところ。空気が乾燥すると粘液も乾燥して粘っこくなります。そして線毛の動きも弱まるために、排出作用が低下します。冬場に風邪やインフルエンザが流行りやすいのは、低温や乾燥による線毛運動の低下も一因です。特に、冬のスポーツを楽しむ人は冷たい乾いた空気を大量に、急激に吸い込むことになるので注意が必要です。

温度と線毛運動の関係